静かな瀬戸内海に、豊島(てしま)という島がある。
名前の由来は定かではないが、僕は「水が豊かな島」だから豊島なんだと思っている。
そんな豊島に、自然を最大限に利用した、体感型の美術館がある。一度行ったら忘れられない、奥深い「豊島美術館」の魅力を紹介する。
画像と内容は2016年12月のものです。
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豊島とは?歴史と自然
豊島の面積は14.5㎞2で、人口約800人の小さな島。
小さいながら、標高339mの檀山があるため、起伏の多い土地になっている。
香川県からは高松港、兵庫県からは宇野港、宝伝港などから船でアクセスできる。
豊島は文字通り、「豊かな島」である。特に、水が豊かだ。
今まで一度も枯れたことがない「唐櫃の清水」が湧き出ていたり、水を利用した稲作が古くからさかんで、たくさんの田んぼがあったり、漁業や酪農も盛んであった。
かつては本当に豊かな島だった。
休耕していた棚田と、豊島事件
だった。というのは、高齢化と過疎化の影響と、豊島事件が起きるまでの話だということ。
「豊島事件」とは?
1975年ごろから、十数年間にわたって産業廃棄物処理業者によって不法投棄が行われた。戦後最大級の不法投棄として「豊島事件」は有名になってしまった。
90年に業者が摘発されるも、2000年まで撤去が行われず、約90トンの産廃が豊島に残った。そしてこの事件が残したのは、産廃と豊島へのイメージダウンだけではなく、有害物質による公害だった。豊かだった漁業や農業は大ダメージをこうむったという。
県が動き出し、島の人たちや直島の三菱マテリアルが協力することでこの事件は終息した。2017年3月には、豊島に残った産廃もようやくすべて処理された。(汚染は完全に除去されたわけではないが)
そして、2010年に芸術祭の開催が決定し、アートで島をさらに活性化させようという取り組みがスタートした。若い人たちが少しずつ集まり、休耕地だった棚田も徐々に復活するようになり、「豊島美術館」も建てられた。
島は着々と、本来の豊かさを取り戻しつつある。
実際、僕が足を運んだ時も自然の豊かさを肌で感じた。第一印象は「うわぁ~豊かぁ~(語彙力!)」って感じだったしね。
海に伸びる道路で一枚
直島―豊島の高速船で家浦港にやってきた僕は、バスに乗って豊島美術館へ向かった。
今回は、朝10時に到着して午後2時に出発というカツカツなスケジュールだったので、美術館へ直行し、家浦港を軽く散策する予定だった。
バスは途中、結構な山道や民家の間を行く。乗客は観光客も多いけど、地元のおじいちゃんやおばあちゃんも多く利用していた。ちゃんと市民の足として使われてるみたいだ。
そして周囲を棚田に囲まれた、開けたところに出た。インスタでよく見る「海に伸びる道」だ!
あいにくの天気だったけど、なかなか幻想的な風景が見られた。
豊島美術館―展示物は「巨大な空間」だけ
豊島美術館は、アーティスト・内藤礼と建築家・西沢立衛によって作られた作品だ。
作品は一つの部屋一つだけ。「母体」と名付けられた空間は40×60mの広さで、一番高いところで4.5mの高さがあり、ドーム状にできているので壁も柱もない。聞いただけだとかなり特殊な感じに聞こえるけど、入ってみたら特殊さに更に驚くだろう。
受付の建物に、コインロッカーとトイレがある。トイレはここだけなので先に済ませておこう。
受付から再び屋外に出て、道なりに歩く。ただの道だけど、草原と木々と海が見えて気持ちがいい。
そして白いドームの前に着くと、入り口でスタッフが小声で案内をしてくれる。中では音を立てないこと、写真は撮れないこと、靴を脱いでくつ下みたいなスリッパで歩くことなど注意事項を説明される。
中に入るまで、事前に何があるのかなどは調べてこなかった。だから余計に驚いた。
心を無にして静けさと動きを感じよう
この空間には、絵やオブジェはなにもない。
巨大な白い壁の空間に、ぽっかり空いた天上の丸い穴、そして座ったり寝転がって床を眺める人々。
良く見ると、室内なのにところどころに水たまりがある。
何処からともなく小さい雫が湧いて、ころころと転がって、雫どうしがつながっていって、大きな水たまり(=泉)に溜まっていく。
最後は不思議なカラカラという音を立てて小さい穴に流れ込んでいく。
そんな一連の摂理をぼんやりと眺めながら、心を落ち着かせて物思いにふける、そんな空間だった。
実際にどんな作品なのかを紹介している動画もある。どんなものか知らずに行ってみるのも面白いので、見るか見ないかはお任せする。
▼(4分あたりから「母体」の映像)
併設のカフェで余韻に浸る
1時間ほどこの空間でボーっとして、この美術館の楽しみ方を理解し、感傷に浸ったところで、美術館入館者だけ入れる併設のカフェとショップに向かった。
ショップでは文房具や本など、豊島美術館オリジナルの商品が売っている。
カフェはちょっと値段は張るけど、お米は棚田で穫れたものなど地元の素材を利用した軽食やスイーツ・ドリンクがあり、どれもおすすめだ。
▼塩おにぎりとほうじ茶 ¥1000
▼豊島産レモンロールケーキ ¥510(ドリンクとセット ¥820)
カフェもドーム状の白い空間になっているので、床に座って本を読んだりしながらゆっくり過ごすことが出来る。
家浦周辺にも見どころあり
再びバスに乗って家浦港に戻る。
豊島は家浦港を中心に住宅やお店が多く、直島ほどではないが現代アートも楽しめる。
▼大竹伸朗「針工場」
「メリヤス針の製造工場跡」に置かれた、「宇和島の造船所にて一度も本来の役目を果たすことなく約30年間放置されていた、鯛網漁船の船体用の木型」とのこと。
残念ながら、訪れたときは休みだった。
他の作品は島の南部や東部に分散しているので、レンタサイクルで回るのもいいかもしれない。
▼「てしまのまど」
オシャレなカフェも充実している。
最近作られたアート作品やカフェだけでなく、昔からあるような商店や建物もたくさんある。
時間がなくゆっくり回れなかったが、他にもいろいろありそうだ。
▼参考にしたサイト
人懐っこい猫もそのへんを散歩しているので、うろうろしていると出会えると思う。
まとめ
「美術館に行ったら絵やオブジェを見る」という固定概念をいい意味で裏切ってくれる、空間が作品の美術館は、他にそうないと思う。
だけど、それは高度な感性を持った人にしか伝わらないわけではないし、子供からお年寄り、言語や文化の壁も関係なく、自然の摂理を利用した不自然な空間の雰囲気にたちまち引き込まれる。
島全体に流れるゆっくりとした空気と、最先端のアートを体験し、軽い衝撃を受けた。
もう一度行きたい、と素直に思える素晴らしい場所だった。
▼瀬戸内・直島編