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【雪害体験談】19歳の頃、山梨で史上最大の積雪を記録した日のこと

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雪の全く降らない土地で育った僕が、山梨に引っ越してはじめての冬に起きた、山梨県で観測史上初の積雪を記録した平成26年豪雪で自然の洗礼を身をもって受けたときの体験談。

深刻なわりに当時大して話題にならず、人々の記憶から消えてしまいそうなので備忘を兼ねて綴ります。

【被災前日譚】

甲府。新宿駅から特急「あずさ」・「かいじ」で1時間半、東京の”外れ”といわれる八王子や立川よりも4段階くらい控えめな町並みではあるものの、首都圏という名誉を持つ、諸地方都市たちよりも鼻が高い、山梨の県庁所在地です。

そんな場所に、僕は大学1年生になると同時に引っ越してきました。盆地特有の熱の籠もった夏の暑さや、冬の締め付けられるような寒さに肩を震わせながらも、はじめての一人暮らしということもあり自由気ままな大学の1年目を過ごしました。

2014年の2月、大学はすでに春休みに入っていて、ゼミもなく課題もなかった僕はバイトや遊びに明け暮れていました。2月のはじめに十数センチの積雪があったので、雪をあまり見たことがなかった僕は犬のように外を駆け回りました。でも本当の悲劇が起きたのは14日のことでした

【初日】最初はワクワクしていた

一日中続く吹雪で家から出られない

2/13の天気予報では、「明日(2/14)は全国的に雪になるところが多く、特に甲府は38cmの積雪がある」ということでした。北の方からやってきたシベリア気団が例年より南下してるとかなんとかで、とはいえ東北では毎年3mくらい雪が積もる場所もあるので、40cmくらいならなんとかなると高をくくっていました。

でも当日になってみると、様子が明らかにおかしい。全く雪がやまない。幸いこの日はバイトも用事もなく、家でのんびり過ごすつもりだったので窓の外をしきりに覗きながら、見たこともない吹雪に目を丸くしていました。

山梨で実質的に【バレンタイン中止のお知らせ】が実現した日でした。

電車が止まる・道路が寸断される

夕方、日が暮れても雪は一向にやみません。甲府で観測した積雪は最高49㎝らしいけど、僕がメジャーで16:30の段階で測った時点で30cmも積もっていました。その後、24:00に測ったときには70cmになっていました。この時点ですでに100年に1度の大雪を凌いでいました。もうヤバい。シャレにならない。という気持ちもありつつも、19歳の僕はあまりの非日常に内心ワクワクしてきました。

この日はちょうどソチオリンピックが開催されていました。テレビは合間のニュースで雪の具合を報道する程度で、山梨が異常事態になっていることを報じてくれません。

予報以上の積雪によって、ダイレクトに打撃を受けたのは交通機関です。中央本線では予想以上の積雪のため運行中止になり、乗客は立ち往生。中央自動車道や一般道もいたるところで事故や積雪で車が立ち往生しました。有力な情報元はツイッターをはじめとしたインターネットのみでした。どんどん大事になるにつれ、僕のワクワクはピークに達していました。

【2日目】とりあえずバイト先を除雪しに行く

普通の生活に戻れないことに気づく


朝起きて、窓の外の風景に愕然としました。

ベランダからいつも見ていた世界はなくなり、まぶしい白銀の世界になっていました。メジャーで積もった雪を測ると、1mを超えていました。昨日までのワクワクはもうなく、「これからどうすればいいんだろう…」という漠然な不安に駆られます。

それはもう災害といって過言でないレベルでした。

▲左が2/9、右が2/15の様子。(同じ場所で撮影)

翌朝は冬らしく澄んだように晴れました。が、明るくなったのと同時に、積もったモノの深刻さが見えてきました。近所一帯団結して雪かきをするものの、あるのはせいぜい雪かきシャベル。重機もなければ雪を捨てる場所もなく、一家に1個あるかないかのシャベルで必死に雪を道路の端に寄せます。人員を増やそうにも、シャベルがどこにも売っていません

この日は朝7時からバイトのシフトが入っていましたが、安全を鑑みつつもいち早く営業再開したいようで、「歩いて来れるようなら来てほしいけど、時間は気にしないでいいからね」と言われました。

普段徒歩で出勤しても45分はかかる道を、片道3時間かけてあるきました。途中、ノーマルタイヤでスタックして立ち往生している車がいたので、この様子だとまたスタックするんだろうなぁ…と思いながらも一緒に押して救ってあげたりしました。

スーパーとコンビニから食料が消える

道路が寸断されて、県外から来ていた人はさぞ困ったと思います。でもその時は県内にいた全員が困っていました。なんたって、県外からの食糧輸送の手段が無くなったんですからね。

スーパーやコンビニに食品を運ぶトラックが各地で立ち往生したり、買い占めがあったことも乗じて、県内の小売店から食料が一瞬で消えました。24時間年中無休のコンビニがシャッターを閉めたり、スーパーが数日間臨時休業したり、世紀末な光景が広がっていました。

山梨に旅客や輸送に使えるような空港はないので、県がまるごと、完全に陸の孤島と化したのです。グローバル社会の現代において、山梨県民83万人が日本や世界から断絶された瞬間でした。

バイト先は某アパレルチェーンの店舗だったのですが、14日、15日は驚くことに営業していました。営業時間こそ繰り上げて閉めましたが、来店できたお客さんは15日は計5人くらい。みんな近くのネットカフェで帰宅困難になっていた人で、替えの下着を求めてきたんだとか。
結局、丸1日数人がかりで雪かきして、数台分の駐車場が確保できました。身体中が筋肉痛でバキバキになりながら、日が暮れる前に帰宅します。

崩壊したカーポートと廃屋と、ぶどう畑

道を歩くと、そこらじゅうの家のカーポートが割れたり潰れたりしていました。雪の重みに耐えきれず、カーポートや雨どい、電灯、しまいには信号機も、屋外にあるあらゆるものが壊れていました。

ぶどうで有名な山梨県。ぶどうはぶら下がってなるので、ぶどう棚には隅柱、中柱といったコンクリ製の柱が立ってますが、近所のぶどう畑では雪が溶けたあと、潰れて原型がなくなっていました。県内のおよそ8割のぶどう農家が、雪害の被害を受けたそうです。

【3日目〜】復旧の兆し

県外への道路が4日ぶりに開通

17日、県の災害対策本部がようやく設置されます。県の職員も雪で登庁できないなど、行政が身動きできない状況が続きました。地震や台風と違って、すべての道が使い物にならないとなると、緊急車両はおろか行政や公共機関はすべて麻痺状態になります。

テレビでは雪で県道が通行不能になり早川町民が孤立したというニュースと、ソチオリンピックの中継を交互に放送していました。町民どころか、実質的には県がまるごと孤立しているのに、他の県の人はそこまで深刻だと思ってなかったんだと思います。

そんな中、セブンイレブンがヘリコプターを使ってパンやおにぎりを届けてくれたりしました。自衛隊も災害支援に入り、なんと人力で立ち往生していた道の雪をかいてくれたのです。

 

中央本線が5日ぶりに復活

道路とともに、県内の鉄道も全線止まっていました。
山梨から県外に出る鉄道は、新宿方面から甲府駅を中継して松本方面へ伸びるJR中央本線と、甲府駅から静岡県の富士駅・静岡駅まで伸びるJR身延線の2本のみで、どちらも山間部を長い距離走るのですが、雪には耐性がありません。

18日の夕方に動き出すまで、立ち往生した14本の電車には1800人の乗客を乗せていました。

ただ、大雪が残した爪痕は大きいです。除雪用の列車が雪で脱線したほどですからね。行政も運輸業も、直接の被害というより、その後の対策の負担が大きくなることでしょう。

【7日目〜】備えの大切さに気づく

雪の降らない土地=ノウハウもなければ除雪車もないということ

1週間ほど経って、ようやく今までのような暮らしが少しずつ戻ってきました。とはいえ、除雪は国道や県道などの主要道がメインで、家から県道に出るまでの小道の日陰になるところは、1ヶ月近く雪が溶けず残っていました。

車道は除雪車や車が走るので1週間くらいで大体の雪がなくなりますが、雪をどけて狭くなった歩道は、歩行者に踏み固められた雪が凍ってしまうので、まさにスケートリンク。
当時自転車しか持っていなかった僕は本当に困りました。

バイト先も除雪の業者が入るまで、数日間は従業員総動員で駐車場の雪かきだけをするような日々でした。売上は毎日大赤字状態で、他の業種も含め、県内全体で経済的な損失も大きかったことでしょう。

 

まとめ

災害は地震や台風だけではなく、雪になれない地方での大雪でも、大きな被害を被ることを体感しました。特に今回は「備えに対する過信」という人災的な側面もあったためなおさらです。

予想外の積雪により、流通がストップし、結果的に県民の生死が危ぶまれる状況になってしまった4年前の惨劇を、どうか1人でも多くの人に覚えていてもらいたいです。

参考:「平成26年豪雪 – アンサイクロペディア」

Wikipedia以上にやたらと詳しく状況が書かれてるので、気になったら読んでみてください。

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